HOME > 地域情報トップ > ぷらっとトラッド > 上越産・自生蓬の最高級モグサ
私たちが暮らすまち
先達が積み重ねてきた歴史、伝統、地域の絆
変わっていくもの、変わらないもの…
大切なものを受け継ぎながら
上越地域の未来をつくるひとびと
“そうだ、あのひとたちに会いに行こう”

上越産・自生蓬の最高級モグサ
四代目・喜昭さんから息子・育太さんへ
お灸用モグサの原料は、蓬(よもぎ)。では蓬の何を使うのか、ご存知だろうか。驚くなかれ、葉脈や茎ではなく「葉の裏の毛」だけ(!)なのだそうだ。そして良質な蓬の一大産地はこの上越地域であり、国産原料の最高級モグサの国内シェア70%を占める企業があるのも、なんとこの上越。これらをご存知の方は、はたして、どのくらいいらっしゃるだろう?
「お灸」と言えば、おそらく「小山状に固めたモグサに点火するもの」が一般的なイメージではないだろうか。あれはスライスした生姜やニンニクなどを台座として挟み、面で熱を伝える「間接灸」と呼ぶものなのだそうだ。こちら、明治29年創業の佐藤竹右衛門商店で生産するモグサは、半米粒大に縒って直接肌に乗せ、ツボを点で熱する「直接灸」用の最高級モグサ。直接と聞いて、すわ “お灸を据える” という慣用句は肌を直火で焼くことを指していたのかと驚けば、次代の担い手である佐藤育太さんは「よく誤解されるんですが」と微笑む。
「モグサと皮膚だと皮膚の方が温かいので、モグサの皮膚に接している部分は可燃温度が変わるんです。だから皮膚に辿り着く前に、火は消える。質の低いモグサや下手な縒り方だと危険ですが、最高級品でしっかり縒ったモグサなら、火傷を負うことはまずありません」
熱いというよりチクッと来るような、鍼に近い感覚なのだそうだ。“最高級” のモグサとは、煙が少なく燃焼温度の低い、柔毛純度の極めて高いもの。そして当然、しっかり縒れるだけの毛足の長さと密度のあるもののことを言う。原料の蓬も、たとえ国産であっても、直接灸モグサの原料にできる蓬は上越産のみなのだという。
今は会社名にのみ残る竹右衛門という名前は、佐藤家に代々襲名されてきた当主の名前だったのだそう。当代の喜昭さんは佐藤家の八代目、モグサ商の佐藤竹右衛門商店では四代目にあたる。モグサの力か、とても76歳には思えない溌剌ぶりの社長だ。
「今から50年ほど前は、モグサはよく売れていました。国産の蓬だけでは材料が足りず、中国産が初めて輸入されたのもその頃です。しかし市販の湿布薬など、使用に技術の要らない商品が世に出回るにつれてお灸の需要は減っていった。一大産地だったこの上越でも、今はモグサ生産をしているのはうちを入れて3店だけ。しかし上越の蓬はやはり質が良いし、受け継いできた製造技術もある。丁寧にやってきたものづくりを、何とか残していきたいと思っています」
モグサの売上げは全国的に低迷し横這いの状態だが、ここ4〜5年でほんの少し変化が見えてきた。育太さんの発案でwebサイトをリニューアルし、ネット通販を始めたことで、熱意をもってお灸に取り組む全国の鍼灸師さんとのつながりができてきたのだという。育太さんが教えてくれた。
「実はお灸は、使った人の『良かった』『効いた』という経験上の話でしか効能が確認されていなくて、科学的には何がどう良いのか、なぜ蓬が良いのか、まだ解明されていないんです」
お灸の技術は大陸から日本に伝わり、京都〜滋賀〜北陸を経て、その製造技術はここ上越の地で最高峰に辿り着いた。東洋医学が世界的にも注目を集めている昨今、お灸の世界に再び脚光が当たるとすれば——その舞台は、上越のほかに無い。
2016年11月30日(な)

DATA
- 名 称
- 有限会社 佐藤竹右衛門商店
- 所在地
- 〒949-1602 新潟県上越市名立区名立大町1015-1
- TEL
- 025-537-2523〈問合せ受付 8:00~17:00〉
- FAX
- 025-537-2532
- 定休日
- 日曜日、祝日、第1・3・5土曜日
- WEB
- http://www.satou-moxa.com
- 備 考
- 操業期間中(11月中旬〜4月中旬)は工場見学可〈要事前連絡〉